Baseball Elegy with Sons
~いま振り返る、親おやドキュメント~
地元の小学生野球チームから中学生のクラブチーム。
子ども3人トータル11年、野球少年の親を経験したおやじの奮闘記です。
「あるある」と笑ってください。
「わかるわかる」と泣いてください。
こいつが少年野球親のドキュメントです。
少年野球ピッチャー論
少年野球は教育機関か?
あるいはそうかもしれない。
野球を通して学ぶことはたくさんある。
勝っても負けてもだ。
だが、子ども達を取り巻く大人達は、残念ながら、ほとんどの場合、教育者たりえない。
特に監督は、結局勝利を追い求める。
それが顕著に表れるのが、ピッチャーである。
長年、少年野球に触れてきて、私がたどり着いた答えは「小学生では、好投手にならなくていい」だ。
試合を作るピッチャー。
四死球を出さないピッチャー。
そこそこコントロールのいいピッチャー。
それが、指揮官が望むピッチャーだ。
私としては「ならなくていい」し「なれない」と思っている。
それよりも「いいボール」を投げてほしい。
きれいな回転のボール。体全体を使った力のあるボール。
少しハードルを上げるなら、ベース上が速いボール。相手ベンチの大人が「おっ」と思うボール。
野手投げではなく、肩や肘、手首の動きにこだわってほしい。
無茶言うなって?その代わりコントロールは気にしない。
そもそも小学生の骨格、走り込んでいない下半身では、制球は身に付かない。
口先だけで、結局勝ちに執着する監督は、コントロールが悪いと判断した途端、「こいつにはピッチャーは向いていない」と、ポジションを変えてしまう。
ひどい監督は、コントロールを良くする為、横投げに変えさせる。この横投げ=コントロールが良くなる論者は、中学、高校、さらに上にもいる。
言うことをきいて横投げにした子は試合に出してもらえる。
うーむ・・・。

なかなかストライクが入らない、でも、もしストライクが入ったら打たれないだろうな、というピッチャーが投げているのを見ると、そのチームの監督はいい監督かも、と思ってしまう。
一方で、ベンチからのプレッシャーを一身に受け止め、四死球を出さないよう投げているピッチャーを見るのは、なんか忍びない。
ボールを置きにいくから手投げになる。それをみて腕を振れという。
あなたが腕を振らせてないんですよ?
「ストライクを投げんか!」などと言ってる監督は、ピッチャーをしたことがないのかも。
ある代の、左のエース。
父親はバリバリ野球経験者。チームのコーチもされていた。
その子はなんと、一塁牽制をボークすれすれで投げることができた。
上げた右足の方向を自在に操る。小学生では見破るのは困難なレベル。
おそらく父親が叩き込んだのだろう。
ここぞという時にその牽制を駆使してピンチを切り抜けていた。
ある強豪チームとの対戦、相手チームのコーチ達が、その子の牽制を見破ろうと、ランナーに「バック!」「ゴー!」「牽制!」「ホーム!」などの掛け声をやたらかけ、まるで見破ってるぞ、とばかりに揺さぶりをかけていた。
最後はボークをとられ、牽制が投げられなくなった。
かわいそうに・・・と思ってしまった。
子どもでは見破れない牽制技術を身につけさせる大人。
それを潰す大人。
みなさん、どちらの大人に共感しますか?
野球というスポーツで、勝敗を背負わせられるのは、いつもピッチャー。
でも、少年野球では、その法則は無視しましょう。でないと、ピッチャーする子いなくなってしまいますよ。
ひたすら雨が止むのを待つ・・・「山の上が明るくなってる!」
ある日、隣の小学校に練習試合に行った。
同じぐらいの年齢の両監督は、数十年の付き合い。
だが、特に仲がいいというわけでもない。
まぁ両チームともたいして強くはないが、一応ライバルなのだろう。
朝から曇り。そして間も無く雨が落ちてきた。
そもそも予報は1日雨。
試合の準備を一旦やめて、両チームとも雨宿り。
・・・
雨はやまない。
両監督はテントの下で椅子に座ってずっと話している。
子どもや父母は軒下などに避難していて、ほとんどの人が、下が濡れているため座れない。
・・・
さらに雨は降り続く。
グラウンドは表面に水が浮いてきた。
子どもたちはだれてしまい、あっちこっちでふざけあっている。
両監督はずっと話している。
雨が止むのを待っているのだろうか。
雨が降り始めてから2時間経過。
お昼になった。
雨を避けつつ、みんなお弁当を食べる。
監督たちも用意された昼食をとる。
・・・
依然として雨。
そりゃそうだ。天気予報がそうなってる。
めったにお目にかかれない黒々とした雲が、我々をあざ笑っている。
陽射しが漏れる隙間はない。
父母の代表が恐る恐る監督たちに聞いた。
「このまま待ちますか?」
両監督が口を揃えて言った。
「◯◯山の上が明るい。そのうち晴れる」
山を指さしながら。
その後、2時間待って、解散した。
雨は一度も止むことは無かった。

この歳で初めて・・・
小学3年生の新入部員が、2人入ってきた。
1人は小柄の子。1人はメガネをかけた子。
初日、新入部員同士でキャッチボール。
メガネの子は暴投ばかり投げるので、小柄の子はいつ見てもボールを追いかけている。
メガネの子の名前は『カズキ』。
ある日、カズキに声をかけた。
「暴投を投げた時は、帽子をとって相手に一礼しよう」
カズキはキョトンとしていたが、とりあえずそのとおりにした。
カズキのお父さんも、一緒に練習に来て、お手伝いをしていた。
カズキをチラチラみては、心配そうにしていた。
その後、私はしばらく仕事の関係で練習に参加できなかった。
余談だが、子どもがやっている以上、土日は少年野球で埋まる。回避するお父さんもいるが、他のお父さん達から何となく浮いてしまうし、自分でも後ろめたさを感じる。
なぜか。
休みの日ぐらい、自分の時間でゆっくりしたいなぁ〜という思いがある。だから最初のうちは、子どもの野球に行くことが重荷、ストレスに感じるのだが、回数を重ねていくと、太陽の下、子どもたちのがんばってる姿、楽しそうな姿に触れることが、実は心のリフレッシュになることに気づく。
そうなると、雨で野球がない日が逆にストレスになる。はい、少年野球父のできあがり!
部員の親同士は、口に出さないが絶対にその感情を共有しており、だから顔を合わせると笑顔になって話ができる。
経験した人にしかわからない。機会がある方は、ぜひ経験していただきたい。

2か月ぶりに練習に参加した。
カズキがいた。
(辞めてなくてよかった)
いつもの小柄の子とキャッチボール中。
(ん?)
小柄の子が、ボールを追いかけていない。
カズキが、相手の胸にしっかりボールを投げているのだ。明らかに上達している。
(家でも練習したかな。お父さんがんばったな)
カズキのお父さんは、やはり心配そうにカズキを見ていた。
キャッチボールが終わり、休憩になった。
(おっと、カズキをほめなくちゃ)
カズキはお茶をごくごく飲んでいた。
背後から「カズキ」と呼ぶ。
カズキが振り向く。
「じょ、上手に・・・な・・」
(あれっ)
言葉が出てこない。
言葉を出そうとすると、泣きそうになる。
カズキはじっとこっちを見ていた。
(早く言わなきゃ)
だが、言えなかった。
カズキは待ちきれず、グラウンドに戻っていった。
夕食時、ビールが入ったコップを片手に、そのことを妻に話した。
「あんなこと、この歳になって初めてだ。」
妻は、おかずを口に運びながら言った。
「この歳になったからじゃない?」
(なるほど)
その日のビールは、なんだか格別だった。
