素敵な少年野球ライフ⁉②/5

スポーツ

Baseball Elegy with Sons
 ~いま振り返る、親おやドキュメント~

地元の小学生野球チームから中学生のクラブチーム。
子ども3人トータル11年、野球少年の親を経験したおやじの奮闘記です。
「あるある」と笑ってください。
「わかるわかる」と泣いてください。
こいつが少年野球親のドキュメントです。

 少年野球は教育機関か?
 あるいはそうかもしれない。

 野球を通して学ぶことはたくさんある。
 勝っても負けてもだ。

 だが、子ども達を取り巻く大人達は、残念ながら、ほとんどの場合、教育者たりえない。
 特に監督は、結局勝利を追い求める。

 それが顕著に表れるのが、ピッチャーである。

 長年、少年野球に触れてきて、私がたどり着いた答えは「小学生では、好投手にならなくていい」だ。
 試合を作るピッチャー。
 四死球を出さないピッチャー。
 そこそこコントロールのいいピッチャー。
 それが、指揮官が望むピッチャーだ。
 私としては「ならなくていい」し「なれない」と思っている。

 それよりも「いいボール」を投げてほしい。
 きれいな回転のボール。体全体を使った力のあるボール。
 少しハードルを上げるなら、ベース上が速いボール。相手ベンチの大人が「おっ」と思うボール。

 野手投げではなく、肩や肘、手首の動きにこだわってほしい。
 無茶言うなって?その代わりコントロールは気にしない。
 そもそも小学生の骨格、走り込んでいない下半身では、制球は身に付かない。

 口先だけで、結局勝ちに執着する監督は、コントロールが悪いと判断した途端、「こいつにはピッチャーは向いていない」と、ポジションを変えてしまう。
 ひどい監督は、コントロールを良くする為、横投げに変えさせる。この横投げ=コントロールが良くなる論者は、中学、高校、さらに上にもいる。
 言うことをきいて横投げにした子は試合に出してもらえる。
 うーむ・・・。

 なかなかストライクが入らない、でも、もしストライクが入ったら打たれないだろうな、というピッチャーが投げているのを見ると、そのチームの監督はいい監督かも、と思ってしまう。
 一方で、ベンチからのプレッシャーを一身に受け止め、四死球を出さないよう投げているピッチャーを見るのは、なんか忍びない。
 ボールを置きにいくから手投げになる。それをみて腕を振れという。
 あなたが腕を振らせてないんですよ?
 「ストライクを投げんか!」などと言ってる監督は、ピッチャーをしたことがないのかも。

 ある代の、左のエース。
 父親はバリバリ野球経験者。チームのコーチもされていた。
 その子はなんと、一塁牽制をボークすれすれで投げることができた。
 上げた右足の方向を自在に操る。小学生では見破るのは困難なレベル。
 おそらく父親が叩き込んだのだろう。
 ここぞという時にその牽制を駆使してピンチを切り抜けていた。

 ある強豪チームとの対戦、相手チームのコーチ達が、その子の牽制を見破ろうと、ランナーに「バック!」「ゴー!」「牽制!」「ホーム!」などの掛け声をやたらかけ、まるで見破ってるぞ、とばかりに揺さぶりをかけていた。
 最後はボークをとられ、牽制が投げられなくなった。
 かわいそうに・・・と思ってしまった。
 子どもでは見破れない牽制技術を身につけさせる大人。
 それを潰す大人。
 みなさん、どちらの大人に共感しますか?

 野球というスポーツで、勝敗を背負わせられるのは、いつもピッチャー。
 でも、少年野球では、その法則は無視しましょう。でないと、ピッチャーする子いなくなってしまいますよ。

 ある日、隣の小学校に練習試合に行った。
 同じぐらいの年齢の両監督は、数十年の付き合い。
 だが、特に仲がいいというわけでもない。
 まぁ両チームともたいして強くはないが、一応ライバルなのだろう。

 朝から曇り。そして間も無く雨が落ちてきた。
 そもそも予報は1日雨。
 試合の準備を一旦やめて、両チームとも雨宿り。

 ・・・
 雨はやまない。
 両監督はテントの下で椅子に座ってずっと話している。
 子どもや父母は軒下などに避難していて、ほとんどの人が、下が濡れているため座れない。

 ・・・
 さらに雨は降り続く。
 グラウンドは表面に水が浮いてきた。
 子どもたちはだれてしまい、あっちこっちでふざけあっている。
 両監督はずっと話している。
 雨が止むのを待っているのだろうか。

 雨が降り始めてから2時間経過。
 お昼になった。
 雨を避けつつ、みんなお弁当を食べる。
 監督たちも用意された昼食をとる。

 ・・・
 依然として雨。
 そりゃそうだ。天気予報がそうなってる。
 めったにお目にかかれない黒々とした雲が、我々をあざ笑っている。
 陽射しが漏れる隙間はない。

 父母の代表が恐る恐る監督たちに聞いた。
「このまま待ちますか?」
 両監督が口を揃えて言った。
「◯◯山の上が明るい。そのうち晴れる」
 山を指さしながら。

 その後、2時間待って、解散した。
 雨は一度も止むことは無かった。

 小学3年生の新入部員が、2人入ってきた。
 1人は小柄の子。1人はメガネをかけた子。
 初日、新入部員同士でキャッチボール。
 メガネの子は暴投ばかり投げるので、小柄の子はいつ見てもボールを追いかけている。

 メガネの子の名前は『カズキ』。
 ある日、カズキに声をかけた。
「暴投を投げた時は、帽子をとって相手に一礼しよう」
 カズキはキョトンとしていたが、とりあえずそのとおりにした。

 カズキのお父さんも、一緒に練習に来て、お手伝いをしていた。
 カズキをチラチラみては、心配そうにしていた。

 その後、私はしばらく仕事の関係で練習に参加できなかった。

 余談だが、子どもがやっている以上、土日は少年野球で埋まる。回避するお父さんもいるが、他のお父さん達から何となく浮いてしまうし、自分でも後ろめたさを感じる。
 なぜか。
 休みの日ぐらい、自分の時間でゆっくりしたいなぁ〜という思いがある。だから最初のうちは、子どもの野球に行くことが重荷、ストレスに感じるのだが、回数を重ねていくと、太陽の下、子どもたちのがんばってる姿、楽しそうな姿に触れることが、実は心のリフレッシュになることに気づく。
 そうなると、雨で野球がない日が逆にストレスになる。はい、少年野球父のできあがり!
 部員の親同士は、口に出さないが絶対にその感情を共有しており、だから顔を合わせると笑顔になって話ができる。
 経験した人にしかわからない。機会がある方は、ぜひ経験していただきたい。

 2か月ぶりに練習に参加した。
 カズキがいた。
 (辞めてなくてよかった)
 いつもの小柄の子とキャッチボール中。
 (ん?)
 小柄の子が、ボールを追いかけていない。
 カズキが、相手の胸にしっかりボールを投げているのだ。明らかに上達している。
 (家でも練習したかな。お父さんがんばったな)
 カズキのお父さんは、やはり心配そうにカズキを見ていた。

 キャッチボールが終わり、休憩になった。
 (おっと、カズキをほめなくちゃ)
 カズキはお茶をごくごく飲んでいた。
 背後から「カズキ」と呼ぶ。
 カズキが振り向く。
 「じょ、上手に・・・な・・」
 (あれっ)
 言葉が出てこない。
 言葉を出そうとすると、泣きそうになる。
 カズキはじっとこっちを見ていた。
 (早く言わなきゃ)
 だが、言えなかった。
 カズキは待ちきれず、グラウンドに戻っていった。

 夕食時、ビールが入ったコップを片手に、そのことを妻に話した。
「あんなこと、この歳になって初めてだ。」
 妻は、おかずを口に運びながら言った。
「この歳になったからじゃない?」
 (なるほど)
 その日のビールは、なんだか格別だった。


 

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