Baseball Elegy with Sons
~いま振り返る、親おやドキュメント~
地元の小学生野球チームから中学生のクラブチーム。
子ども3人トータル11年、野球少年の親を経験したおやじの奮闘記です。
「あるある」と笑ってください。
「わかるわかる」と泣いてください。
こいつが少年野球親のドキュメントです。
道具運搬、危険作業、重労働 & バス運転手
またしても、中学硬式クラブチームの話。
親の当番は順番性だが、さらにその当番の中で細かい役目が振り分けられる。
私たちのチームの場合、ホームグラウンドを持っていない。
したがって、道具の運搬が必要になる。
野球道具だけでなく、バッティングマシンやバッティングゲージなどに使うネット類も運ばなくてはならず、3台の運搬車の運転が、当番として回ってくる。
さて、その3台の運搬車。
驚くべきことに、3台ともミッション。
ミッションの運転は、久しぶり過ぎて不安だったが、意外と覚えているもので、何とか運転できた。
それよりもっと不安だったのが、車両の古さ。
冷暖房が壊れている。
窓の開閉でハンドルを回すと、ハンドルがとれる。
スピードが出ない。ギアが入りにくい。
もちろん車検はとおっている。
大きな声では言えないが、ネットを積む軽トラ、マシンを積む元引っ越し屋の車両は、明らかに過積載。野球道具を積んでいる2トン車も怪しい。

ホームグランドは無いが、確保しやすいグラウンドをおさえるので、毎週ほぼほぼ同じグラウンドになる。
そのグラウンドが、何と隣の県。しかも山越え。
危険な車両を、しかも長距離運転しなければならない。
まるでマッドマックス並みのバイオレンス!
正直、車両運転の当番は憂鬱で、終わったその日のビールは格別となる。
「生きててよかった」と。
グランドを持たないということは、毎回、練習環境を整えなければならない。
つまり、毎回、危険作業、重労働を行う。
既存のバックネットを中心に、巨大ネットを設置する。当然高所作業だ。
若いお父さんに任せたいところだが、いつもいつも、そういうわけにはいかない。
バッティングゲージも、四角い支柱ネットを組み立てて作る。
別に組み立て式で売っているものではないので、一度でうまくいかない場合もある。
少なくとも5、6人のお父さんが必要になる。
野球道具を積んでいる2トン車から道具を出し、終わったら積むのだが、入れ方が少しでも違うとすべてを入れられず、またやり直し。
要領を得ているお父さんが何人かおり、みんな指示に従う。
危険作業&重労働で、その日はくたくたになる。
運搬者の運転当番は、その後にまた、マッドマックスで帰らなければならない。
ホームグラウンドを持っているチームと練習試合をする場合があるが、道具やマシンをグランド内に置いており、運搬がない。
なんて羨ましいんだと、泣きそうになる。泣いているお父さんもいた。
※余談だが、このホームグラウンドも、公園内の一部だったりする。
道具など置きっぱなしだが、どうやって使用許可を得ているのか。(謎)
最後に、バス運転手。
これは、大型二種免許がいるため、当番制とはいかない。
私の子がいたチームは、学年ごと、お父さんの中から3人程度をバス運転手に決め、大型二種免許を取得していただいた。
費用は親全体で負担したが、自動車学校にまで通ってもらうのはかなりの負担であり、部員の命を預かる重積である。
当然成り手がおらず、選考は困難を極めた。
ただ、役員や他の当番は免除になるので、時間をかけ、なんとか3人の方に手を挙げていただいた。
感謝!
ちなみに、というか当然のことというか、前述の道具車と同様、チーム所有のバスも古い(ボロい)。
中学生のクラブチームは、練習も試合もそこそこ遠距離移動だ。
その大事な部員の移動手段が、免許取り立てのお父さんが運転するボロバス。
まるでオカルトだが、恐らく全国的にも、似たような状況ではないだろうか。
あるホームラン
子どもが小学生の時にお世話になったチームの試合を、久しぶりに見に行った。
末っ子の三男が卒部してから2年後のこと。懇意にしている同じマンションの家族の子が試合に出ることもあり、応援がてら、といったとこだ。
太陽。初夏の香り。乾いた空気に心地よい風。
響き渡る、声変わりしていない元気な子どもの声。
やはりいい。
この雰囲気にひたる喜び、自然と笑顔になってしまう快楽は、味わった人にしかわからない。
試合が始まった。三塁側の離れたところから観戦。
一塁側の相手チームは、同じ連盟で、何度も何度も試合をしてきた。
例年、部員が少なめで、あまり強くない印象が残っている。
だが、小学生のチームは、その年によって急に強くなることがある。
バッテリーがいい。苦戦しそうな予感。
案の定、中盤まで接戦。好ゲームは、子どもたちの表情をさらに良くする。
終盤、相手の攻撃。下位打線。
右バッターボックスに女の子が入る。
打席に入る前に何度も素振り。
小柄で、振ったバットに体を持っていかれる感じ。歯を食いしばって振る。
うちのチームの外野、特にレフトは、かなりの前身守備をとる。
相手の一塁側に陣取る家族応援団の声援が、一段と大きくなり、蝉の鳴き声をかき消す。
声援に比例して、その子の素振りが強くなる。
ピッチャーがプレートを踏む。
一瞬、静まる。
投げたボールは高め。あるいはボール球か。
女の子は打ちにいく。
初球攻撃。
ビヨンドバットは快音を残さない。
打球はハーフライナーでレフトへ。
前身守備のレフトの頭上。ジャンプは届かない。
一塁側応援団から一気に吹き上がる歓声。
女の子は左足で一塁ベースを蹴る。
このグラウンド、外野が広い。
懸命に打球を追いかけるセンターとレフト。だが打球は転がり続け、追いつかせてはくれない。
「回せー!」
ベンチからの声を聞くまでもなく、三塁コーチャーボックスの子は手をぐるぐる回している。
私のすぐ近くで、女の子は三塁ベースを蹴った。
顔を真っ赤にして走る。
そこからの光景を、私は忘れることはないだろう。
ホームに向かって最後の力を振り絞って走る女の子の向こうには、その子のチームのベンチと応援団がずらっと並んでいる。
きっとその女の子の家族もいる。
みんなすごい形相で、大声で叫んでいる。
バックホームはキャッチャーに届かない。
女の子がホームを踏む。
その瞬間、まるで大波のように、一塁側全員が両手を挙げる。叫ぶ。
地面が揺れる。
鳥肌が立つほどの大歓声。
女の子は、赤い顔をこわばらせたまま、その歓声を浴びる。
太陽や雲は、その景色を彩るために存在した。

最後に
力は魅力を創造する。
子どもたちの野球には、とてつもない魅力がある。
レギュラーになれなくても、重労働しても、最後には
(いい時間だった)
みなさん、もし子どもさんが野球したいって言ってきたら、ぜひ、させてください。
お願いします。
ぜひ、お願いします。
